次に見つけたのは、自分が調べた中で一番大きい型枠の会社だった。
スーパーゼネコンの専属。
規模も、実績も、トップクラス。
「ここに行けば、全部わかる」
そう思った。
その日の仕事が終わったあと、すぐに電話をした。
突然の連絡だったけど、話を聞いてくれた。
状況も、自分の考えも全部伝えた。
すると言われた。
「今すぐ事務所に来れる?」
僕は迷わず答えた。
「今すぐ行きます」
事務所に着くと、想像していたよりもずっと大きかった。
組合のような雰囲気で、正直入るのに少し勇気がいった。
中に入ると、すぐ社長室に通された。
ソファーに座った瞬間――
6人に囲まれた。
会長、社長、職員たち。
まるで取り調べのようだった。
これまでのことを全部話した。
そして、自分が知りたいことも伝えた。
「最高クラスの型枠大工はどんな人なのか」
「どれくらい稼げるのか」
「その人生は楽しいのか」
話を聞いたあと、
「来月から来ていいよ」
そう言われた。
こうして、働くことになった。
このあと、人生で一番きつい日々が始まるとも知らずに。
配属されたのは、その会社でも一番腕のあるグループだった。
現場に行って、挨拶をした。
「今日からよろしくお願いします」
仕事が始まった。
内容は同じ型枠。
問題なくできた。
給料はまだ決まっていなかったけど、
「ここならどれくらいの価値がつくのか」
少し楽しみでもあった。
でも、すぐに違和感に気づいた。
このグループ、休憩しない。
現場の空気も、ずっと張り詰めている。
夕方5時。
ようやく終わりかと思ったとき、
親方に言われた。
「今日はもう上がっていいよ」
え?
5時で終わりじゃないのか?
意味がわからなかった。
次の日。
朝7時に現場に着いた。
でも、誰もいない。
「え?」
と思った次の瞬間、
もう仕事が始まっていた。
サービスの早出だった。
お金は出ない。
そのあと朝礼が始まった。
ラジオ体操が終わって整列した瞬間――
一番若い職人が、親方にヘルメットごと頭を叩かれた。
すごい勢いで怒鳴られていた。
みんなの前で。
理由は、体操のときに広がっていたから。
そこまでやるのか。
そう思った。
胸が苦しかった。
仕事が始まっても、休憩はない。
休憩すること自体に、罪の意識があるような空気だった。
昼も、食べたらすぐ現場に戻る。
座ることすらできない。
5時になっても終わらない。
残業は当たり前。
毎日19時前後まで続いた。
通勤もきつかった。
電車で2時間、歩いて30分。
往復で5時間。
交通費は1日2600円。
通うだけで消耗していく。
そんな毎日が続いた。
まるで修行だった。
ふと、思った。
「自分、何してるんだろう」
疲れすぎて、笑ってしまった。
確かに、仕事は早い。
でも、それは――
恐怖で人を動かしているだけだった。
無理やりやらせる。
支配する。
職人というより、奴隷のように見えた。
ある日、18時半に仕事が終わった。
やっと帰れると思った。
でも親方が言った。
「休憩所、汚いと思わないか?」
そこから、全員で掃除が始まった。
他の業者の分まで。
「なんなんだ、ここは」
そう思った。
1ヶ月後、給料が決まった。
一人前の最高金額。
さらに、残業代もつく。
間違いなく、今までで一番稼げる環境だった。
でも――
思った。
「ふざけんな」
こんな働き方で稼いでも、意味がない。
ここにいたら、壊れる。
僕は、そのグループを離れることにした。
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【第9話】じゃあ自分は何をするのか|自由を作り続ける男の記録

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【第0話】現場で倒れて、独立を諦めました|それでも今、こう考えています


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